出版不況と印税と書き手

 「本が売れない」という声が、出版業界では前々から言われている。もちろん、書き手も苦しい。
 私には、本の印税の計算をするクセがある。正直、これはどうも、と思うことがある。
 小谷野敦さんに、『もてない男』(ちくま新書)という本がある。この本は日本中のもてない男の共感を呼び、現在まで続く「非モテ語り」の原型ともなった。今日日もてないもてないと言っている人たちは皆小谷野さんの亜種である。
 さて、日本人男性に「非モテ」というムーブメントを起こした小谷野さんは、この本でいくら儲けたか。ものすごく話題になって影響も与えたからかなり稼いだだろう、と思ったらそうではない。
 本の値段は手元にあるもので660円。印税は1割で66円。売れた部数は10万部という。660万円しか儲かっていない。
 660万円といえば、ややいいところのメーカーの年収程度だ。朝日新聞記者の年収の半分にもならない。日本中にものすごい波紋を呼んでおいて一般人の年収程度とは、とやるせなくなる。
 だが、これでも「売れる」部類なのである。
 最近は新書でも1万部台と聞く。700円で印税率1割の新書が1万部で初刷で終わるとすると、70万円にしかならない。これは一般企業新卒正社員の3.5ヶ月分の給料程度でしかない。一冊の本を書いて世に問うことは、その程度の価値しかないのかと考えてしまう。
 2000部、3000部単位の単行本の印税は正直考えたくない。しかもそういう本は印税率が8%や6%であることも多い。
 こういった状況が出版の世界にあることはあまり知られていないが、もっと知られてもいい話だ。
小林拓矢